事業用定期借地権付建物の鑑定評価一棟貸しの賃貸面積について)大阪市東部

この記事の目次

不動産鑑定評価ケーススタディー(この案件の概要)

大阪市東部(生野区、天王寺区、城東区、浪速区、鶴見区、東成区など)で事業用定期借地権付建物の鑑定評価を行ったことがあります。当該エリアは文教地区で、塾などが多い地域で、子供の通学に便利な駅前にはそのような需要が認められますが、最近は学生数の減少で、塾などの用途の需要は厳しくなっているようです。 

当該案件は、一棟貸しの物件でした。こういう物件の場合、注意しないといけないのは賃料単価の整合性(比較する事例と対象)です。

賃料単価は、物件の専有部分だけの単価、共用部分を含んだ単価が市場で混在しており、私が過去に借りていたオフィスの賃貸面積は共用部分を含んだ面積の時もあれば、実質の専有面積の時もありました。

すなわち、一棟貸しに関係なくオーナーの判断で、共用部分を含めるかは異なるようです。 賃料単価を比較するときは、対象物件の各階の登記上の床面積と契約上の床面積の合計を比較し、共用部分が含まれているか確認することが重要です。

一棟貸しの物件は、登記面積と契約面積がほぼ一致していることが多く、共用部分を含んだ賃料単価のことが多いです。事例を収集する場合は、市場の賃貸事例が、いずれに該当するか、検証することが重要だと思います。

PEGASUS AOYAMA 共用部分参考図面

この専有面積と共用部分を含んだ面積については、弁護士の回答が参考になります。

共用部分を賃貸面積に含んだ契約になっている場合、賃借人から、賃貸面積の不足を理由に既払賃料の返還請求訴訟が提起されたりすることがありますが、いまのところ、オフィスの契約面積は実際に使用可能な専有面積とは異なることが世間一般で理解されていることから、訴訟で認められることにはならないと考えられているようです。 

以前評価したことのある案件は、建物の多くが自社使用で、一部が関連会社に賃貸されている事業用定期借地権付建物の鑑定評価でしたので、100%を収益で決定する物件ではなく、事業用定期借地権の価格の付いた積算価格も試算価格として重要でした。

このような定期借地権の特徴は、通常の借地権と異なり有期であり、期間の経過に伴い定期借地権の価値が低減することです。このことが、鑑定評価の各手法に反映されています。また、このような定期借地権の価格は、理論と市場の相場が乖離することもあるので注意が必要です。

定期借地権にかかる鑑定評価の方法等の検討、以下国土交通省作成資料より抜粋

鑑定評価の対象としての借地権は、借地借家法による普通借地権と法定更新が認められない定期借地権に大きく分けられる。平成 3 年に旧法が廃止され、法定更新の制度のある普通借地権についてそのルールを定め、法定更新のない定期借地権が新たに創設されている。

借地権の種類

借地権の種類
定期借地権にかかる鑑定評価の方法等の検討 、国土交通省

更地価格に占める経済的な利益の割合

更地価格に占める経済的な利益の割合(イメージ)
更地価格に占める経済的な利益の割合(イメージ)

上記は、最も経済的な価値のあるのは、永続性のある普通借地権であり、次に有期の定期借地権であり、最後に、無償の貸し借りの使用借権(競売では10%くらいの価値で把握しますが、一般市場では売買の対象にはならない)となります。

地代が発生する期間は、借地権を設定してから、土地が返還されるまでであり、建物の建築中、建物の解体中の建物オーナーにとって収益の発生しない期間も地代を支払わないといけません。この建物オーナーにとって修正の発生する期間とそれ以外の期間で、違った地代を設定することも考えられると思います。例えば、建物建築中は、安めの地代で合意し、建物が建築してから、通常の地代にしてもらうなど。

借地期間満了時の建物の取り扱いで、解体することが多いと思われますが、建物の買い取り、無償譲渡という選択肢があり、建物の買取請求排除特約を付けるかを、契約時に注意しなくてはいけません。

現時点では、定期借地権そのものが取引の対象となっておらず、ほとんどの取引が建物と借地権が一体となった定期借地権付建物の取引です。

よって、定期借地権付建物の鑑定評価では、定期借地権そのものが単独で取引 の対象とならないことから、借地権が建物の取引にくっついて取引の対象となることから、複合不動産の構成部分として定期借地権の価格が形成されるケースが大半であることに注意を要します。

定期借地権は借地権の一つです。したがって定期借地権の評価は、基本的には、借地権の鑑定評価の手法に準じたものになりますが、定期借地権は単独では取引の対象とならないことから、借地権の取引慣行の成熟の程度が低い場合の鑑定評価に準じて評価することになる。

定期借地権を求める手法(不動産鑑定評価)

定期借地権の取引事例比較法

定期借地権の取引事例比較法の基本的な算定式
定期借地権の取引事例比較法の基本的な算定式

理想的なのは、定期借地権の取引事例を比較して、比準価格を求めることです。しかし、比較の対象となる契約内容の類似性を有する定期借地権の事例の収集が困難という問題があります。デベロッパーが定期借地権付住宅として大規模開発した住宅団地などでは、事例を集めることが可能と思われますが、例えば、同じ路線沿いにある路線商業地の事業用定期借地権の事例は、隣近所に聞きにまわっても教えてもらえるものではなく、一般的には借地事例の収集が難しいと思われます。

借地権残余法(借地権価格を求める手法)

地価公示で行われる土地残余法と違う点は、土地の固定資産税等が計上されず、実際支払地代(年額地代)が計上され、利回りが借地権に対応したものになることでしょう。また、建物の期間にも注意しなくてはいけません。

賃料差額還元法(借地権価格を求める手法)

賃料差額還元法の算定式(定期借地権単独の価格を求める場合)
賃料差額還元法の算定式(定期借地権単独の価格を求める場合)

賃料差額(借りて得している部分=借地人の経済的利益)に着目したやり方で、借地権の鑑定評価の一般的な手法です。建物が解体される場合は、建物の解体費用の現在価値が計上されていることに注意しなくてはいけません。

上記の例では、賃貸事例比較法を適用せず、適正地代(正常実質賃料)を求めています。実質賃料となっている意味は、保証金の運用益等を含んでいるという意味で、支払賃料と表示されれば、ただの毎月払っいている地代と考えて下さい。

上記でさりげなく、慣行的に取引の対象となっている部分を90%としていますが、ここはなぜ、90%なのか合理的な説明が難しい部分と思います。

借地権割合法(鑑定評価基準にない求め方)

更地家格に借地権割合(相続税で規定されている割合など)を乗じて価格を求める手法です。 借地権は契約の個別性が強いことから単純に借地権割合を乗じるだけでは説得力が低い。契約の個別性を考慮して割合を求める必要がある。

定期借地権付建物の原価法(借地権+建物)

この評価では、建物の経済的な耐用年数が定期借地権契約の残存期間を超えないように注意する必要があります。

定期借地権付建物の原価法の試算シート(例)
定期借地権付建物の原価法の試算シート(例)

定期借地権付建物の収益還元法

定期借地権は 有期、かつ契約の更新が無い、建物の再建築により期間が延長されないという特性を有しています。このことから、収益還元法でよく使われる、直接還元法(純収益÷利回り)ではなく、DCF 法やインウッド式という有期の収益還元の方法が使われます。

DCF法(定期借地権付建物の収益還元法)

DCF 法は、相続開始時に、今後予測される連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、相続時点に割り引いて合計する方法です。

借地期間満了までの保有を前提した場合の DCF 法の算定式
借地期間満了までの保有を前提した場合の DCF 法の算定式
借地期間満了までの保有を前提した場合の収益還元法のイメージ
借地期間満了までの保有を前提した場合の収益還元法のイメージ

インウッド方式(定期借地権付建物の収益還元法)

インウッド方式は、不動産鑑定評価で使われることのある有期の収益還元法の手法です。将来の償却前純収益が一定額で一定の年数続くと仮定した場合、有限の資産価値を求める場合に用いられます。

定期借地権等の種類及び評価(国税庁)

借地権の種類(国税庁、財産評価)

借地権は、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を言い、鑑定評価の考え方と同じです。

そして、この借地権は、相続税などの課税対象になります。この借地権は、次のような5種類の借地権に分類されます。その5つは、借地権(旧借地法など)、定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権、一時使用目的の借地権です。

借地権の評価(国税庁、財産評価)

相続税財産評価の求め方では、借地権の価額は、借地権の目的となっている宅地について権利の付着していない、自用地としての価額を求め、これに借地権割合(路線価図でわかります)を乗じて求めます。

定期借地権等の評価(国税庁、財産評価)

定期借地権等の価額は、原則として、課税時期(相続又は遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において借地人に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって評価します。  

No.4611 借地権の評価

ただし、課税上弊害がない場合に限り、その定期借地権等の目的となっている底地の自用地としての価額に、次の算式により計算した数値を乗じて計算することができます。

定期借地権の相続税評価額の計算の仕方

定期借地権の相続税評価額 = 定期借地権の目的となっている宅地の自用地の価額 ✕ ① / ②✕③/ ④

①:借地人に帰属する経済的利益の額

この借地人に帰属する経済的利益は、権利金、礼金及び保証金、敷金の運用益、賃料差額(適正な地代と実際の地代の差額)をベースに計算します。

②:その宅地の通常の取引価額

借りている土地が実際の市場で取引されている価額です。取引価額が不明な場合には、定期借地権の設定時の自用地の価額(相続税路線価×地積)を0.8で割り戻して求めます。

③:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

相続したときにどのくらい貸付金が残っているかを表しています。たとえば、50年の定期借地権を設定し、30年後に相続が発生したら、課税時期の残りは20年となり、この時点でいくら支払うべきかを表します。

④:定期借地権の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率

残存期間が20年の場合は、区分は長期となり、期間は7年以上の区分となります。この基準年利率を元にして複利年金現価率を計算します。

上記基準年率を調べると下の方に次のような複利表が出てきますので、年数に対応した複利年金現価率(毎年一定金額を一定期間受け取るためには、現在いくらの元本があればよいか)を求めます。

複利年金現価率
複利年金現価率

一時使用目的の借地権の評価(国税庁、財産評価)

一時使用のための借地権の価額は、通常の借地権の価額と同様にその借地権の所在する地域について定められた借地権割合を自用地としての価額に乗じて評価することは適当ではありませんので、雑種地の賃借権の評価方法と同じように評価します。

No.4611 借地権の評価
No.4611 借地権の評価
No.4611 借地権の評価

一般定期借地権の目的となっている宅地の評価(国税庁、財産評価)

一般定期借地権の目的となっている宅地の評価については、課税上弊害がない限り、財産評価基本通達の定めにかかわらず、以下の評価をします。  

No.4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価
No.4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価

鑑定評価上の論点

現在、借地契約について基本合意書が存するだけで、一般定期借地権設定契約書が締結されていない場合、定期借地権の付いた底地として鑑定評価等を行って良いか。

鑑定評価書等を利用する方の「利益を害する可能性」に注意する必要があります。その際、借地契約の内容が一般定期借地権の法定成立要件を具備するか、基本合意の内容、依頼目的、実現性や合法性に留意する必要があります。

事業用定期借地権に関連した不動産鑑定評価 REITその1

日本ビルファンド投資法人  神宮前M-SQUARE

日本ビルファンド投資法人  神宮前M-SQUARE
日本ビルファンド投資法人  神宮前M-SQUARE

定期借地権に関連した不動産鑑定評価 REITその2

ケネディクス不動産投資法人 KDX小林道修町ビル

ケネディクス不動産投資法人 KDX小林道修町ビル3
ケネディクス不動産投資法人 KDX小林道修町ビル
ケネディクス不動産投資法人 KDX小林道修町ビル5
ケネディクス不動産投資法人 KDX小林道修町ビル

まとめ

定期借地権は、通常の借地権と異なり有期であり、期間の経過に伴い定期借地権の価値が低減することに注意が必要です。また、事業用定期借地権付建物の収益価格を求める際の期待利回りについては、東京で4%程度、大阪で5%程度と低い点が注目されます。通常、事業用定期借地権のような年々価値が減少する権利を含む物件の積算面での担保価値は低いものと考えられますが、REITに組み込まれる程の物件の場合、融資の問題はクリアーできるのでしょう。ただし、REITに組み込まれない事業用定期借地権付建物は、融資の問題も有り、期待利回りはREITの水準より高めになっているものと思われます。

このホームページの運営者

にほんブログ村 士業ブログ 不動産鑑定士へ

コメントを残す