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不動産鑑定評価ケーススタディー(この案件の概要)
大阪府の関空の近くの泉州地区(大阪府南西部に位置し、堺市、岸和田市、泉大津市、貝塚市、泉佐野市、和泉市、高石市、泉南市、阪南市、忠岡町、熊取町、田尻町、岬町の13市からなる地域)で、ホテルに用途変更された不動産の鑑定評価を行ったことがあります。
インバウンド(外国人が訪れてくる旅行)により外国人観光客が増加しており、ホテル需要が高まり、ホテルへの用途変更が行われたようです。もともとグレードの高い建物だったので、ホテルに用途変更された後も違和感なく、当初からホテルだったと勘違いするくらい馴染んでいました。このようなホテルの鑑定評価を行ったとき把握できたホテル貸室の需要の情報から、当時では、まだまだ外国人観光客のホテル貸室のニーズがかなり高いものだと認識しました。
なお、私が以前借りていた事務所の隣で、当初、オフィスを建築すると、案内が来ていたのですが、後で用途がホテルに変わっていたことがあります。
大阪市の堺筋線周辺では、以下のような新しいホテルが立地するようになり、中国人観光客をターゲットとするホテルの建設は、まだまだ続きそうです。
ホテルの鑑定評価の特徴
・ホテル事業の経営の影響を受ける
・同業他社との客観的な事業採算性の比較が困難
・ホテルの賃貸情報の入手が困難
・ホテルブランドの影響
・什器、備品等の存在
ホテルの鑑定評価の手法
ホテルの鑑定評価は、売上高、売上原価等の費用からGOPを求め、FF&Eなどを控除(控除しないやり方もある。利回りで調整)してオーナーの総収入であるホテル賃料(負担可能賃料相当額)を求め、そこからホテルが負担する賃貸費用(PMフィー、公租公課、損害保険料、CAPEX)等を控除し、NCFを求め、ホテルの還元利回り(割引率)などから収益価格を求めるやり方が一般的です。
すなわち、対象ホテルが将来生み出すであろう と期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより価格を求めるのですが、賃料収入等を基にホテルの収益価格を求めるに際し、事業収支を分析し、事業収支から当該事業主体が負担できる賃料相当額を算出し、そこから不動産に係る費用を控除して純収益を求め、 当該純収益を還元利回りで還元して収益価格を試算するのです。
GOPとは、総営業利益率などと言われる。不動産関連経費控除前の営業利益であり、オペレーターの営業成績(総支配人の責任利益)とも言える。
FF&Eとは、ホテルの営業用家具や什器備品(ベッド、 テレビ、カーペット、壁紙、厨房器具等)です。
なお、対象不動産の所有者がFF&Eを所有していない場合には、FF&Eは賃貸借の対象ではないため注意が必要です。
この案件では、既にホテル賃料(負担可能賃料相当額)が求められていたので、賃借が行われていたホテルオーナー(賃貸人)サイドからのホテル所有(不動産投資)の価値を求めました。
こういう事業用不動産の評価で、売上高、売上原価等の費用からGOPを求め、FF&Eなどを控除して事業収支を査定し、当該事業収支を還元利回りで還元してしまうと、事業の価値(企業収益)を求めることとなり、不動産以外の部分の価値が収益価値に含まれてしまうことに注意が必要です。
こういうホテル、ゴルフ場、パチンコ店などの事業用不動産の鑑定評価では、不動産の価格を求めているのか、事業の価値を求めているのか、注意を払う必要があります。
事業用の不動産の不動産鑑定評価のご依頼がある場合は、事業収支を分析し、負担可能賃料等を求め、不動産賃貸に基づく収益性からこれらの事業用の不動産の価格を求めるやり方が考えられます。
ホテルの鑑定評価の期待利回り(参考)
第40回不動産投資家調査(2019年4月現在)、日本不動産研究所によると、期待利回り(宿泊特化型ホテル)については、東京五輪が近づく中、東京の期待利回りが 4.4%で前回比 0.1%の 低下となっ たが、その他の地区の多くは横ばいだったようです。
主要な地域の期待利回り(宿泊特化型ホテル)は以下のとおりです。
大阪4.8%
京都4.8%
名古屋5.2%
東京4.4%
ホテルの鑑定評価:総売上高に対する家賃割合
ホテル年鑑中小企業の財務指標によると、14%から29%程度
ホテル年鑑によると13%から23%程度
ホテルの鑑定評価:GOPに対する家賃割合
GOPからFF&E積立金、マネジメントフィー等を控除すると、負担可能賃料はGOPの70%くらいと言われています。
レジャーホテルの評価の手法(月間売上比率から求める手法)
レジャーホテルの総投資額(ホテル取得費用 + 1室リニューアル費用 ✕ 室数) ✕ 2.3% < 月間売上高
具体例
(ホテル取得費用7.5億円 + 1室リニューアル費用500万円 ✕ 50室) ✕ 2.3% =2300万円
この2.3%という数値が業界の一つの目安のようです。ただし、レジャーホテルの需要により、この数値は変わると思います。
月間売上高は、仮に50室✕50万円の2500万円だった場合
2300万円<2500万円
レジャーホテルの貸室で1室につき50万円あげられるなら、投資対象になるという考え方です。
参考文献:ホテルとゴルフ場の評価実務のすべてがわかる本、住宅新報社
レジャーホテルの評価の手法(投下貸本回収から求める手法)
中古のレジャーホテルの投下資本回収に要する期間を8から10年と言われていることから、これら回収に要する期間と初期投資金額に対する利益率から、投資対象になるか検討するやり方である。
月間売上高50万円 ✕ 貸室50室 ✕ 12ヶ月 ✕ 営業利益率50%(仮の数値) ✕ 投下貸本の回収期間8年=12億円(利益総額)
注:法人税などを考慮していないので、利益総額を積み上げても、残債はゼロにならない。上記計算は、そのようなことを考慮しない計算と考えられる。あるいは、以下の20%という数値の中に全て織り込み済みと考えるべきか。
(利益総額12億円-総投資額10億円) ÷ 総投資額10億円 = 20%(初期投資額に対する利益率)
ホテル取得費用7.5億円 + 1室リニューアル費用500万円 ✕ 50室=10億円(総投資額)
この場合、20%の初期投資額に対する利益率(複利ではない)が見込まれるので、投資対象になるという考え方です。
参考文献:ホテルとゴルフ場の評価実務のすべてがわかる本、住宅新報社
ホテルの不動産鑑定評価 REIT インヴィンシブル投資法人(参考)
上記、REITの還元利回りが4.3%から4.4%、東京都の宿泊特化型ホテルの期待利回りが前述の研究所の調査で 4.4%だったので、バランスが取れていると思われます。
ホテルコンバージョン事例(オフィス→ホテル)
大和ライフネクスト(株)はこのほど、大型ホステル「THE STAY OSAKA(ザ・ステイ・オオサカ)心斎橋」(大阪市中央区、総客室数45室)をオープンした。
同ホステルは、築36年の老朽化ビルを、大型ホステル(総収容人数265名)へとコンバージョンしたもの。
大阪市営地下鉄堺筋線・長堀鶴見緑地線「長堀橋」駅徒歩2分、大阪市営地下鉄御堂筋線・長堀鶴見緑地線「心斎橋」駅徒歩10分に立地。鉄骨造・鉄筋コンクリート造地上7階建て、敷地面積664.13平方メートル、延床面積3,403.20平方メートル。
大阪に大型ホステル/大和ライフネクスト、株式会社不動産流通研究所
島之内は、独立した当時に事務所を構えたエリアのため、よく知っている街で、大阪の日本橋(にっぽんばし)から北に1駅の長堀橋にあります。島之内は、歓楽街に比較的近く、飲食店に勤務する方が住んでたりするようです。島之内は知っている人は知っているこわい一面もありますが、長堀橋駅前にはブランズのタワーマンション(タワーマンションの前は、日産プリンス大阪のディーラーのお店でした。)が出来て、街並みも良くなってきました。なお、このブランズのタワーマンション反対側付近(島之内1-3-13)に大阪厚生信用金庫のかなり大きなビル(延床面積14,000㎡以上)が現在、建築中です。
まとめ
ホテル等の事業用不動産の評価で、売上高、売上原価等の費用からGOPを求め、FF&Eなどを控除して事業収支を査定し、当該事業収支を還元利回りで還元してしまうと、事業の価値(企業収益)を求めることとなり、不動産以外の部分の価値が収益価値に含まれてしまうことに注意が必要です。
ホテルの鑑定評価は、売上高、売上原価等の費用からGOPを求め、FF&Eなどを控除してオーナーの総収入であるホテルの負担可能賃料相当額を求め、そこからホテルが負担する賃貸費用等を控除し、NCFを求め、ホテルの還元利回り(割引率)などから収益価格を求めるやり方が一般的です。
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