この記事の目次
不動産物件のケーススタディー(この案件の概要)
この案件は、実際に鑑定評価を行った案件ではなく、過去に行った定期借地権付住宅の賃借権の更新に係る時価の算定(更地としての評価)の案件の記事を書こうかと考え、情報収集していたとき、当該エリアからやや離れた地域(市町村が異なる)で、定期借地権付住宅の売出しがなされており、その価格が思ったより安いと思われたので、中古の定期借地権付住宅を購入する場合の論点(利回りなど)や注意点について書こうと思います。
定期借地権
借地権の分類(定期借地権の概要)
定期借地権は、期間に定めのある借地権のことを言います。昔からある普通借地権とは違い、契約の更新がありません。また、借地の契約期間が満了したときは、土地を更地に戻して地主に返還することが原則となる借地権です。契約期間は、戸建て住宅の一般定期借地権の場合は50年以上が一般的です。これらの物件を他の方に売ったり、貸したりすることが可能ですが、賃借権方式の場合は売却するときに地主の承諾が必要となります。
定期借地権等の評価(国税庁、財産評価)
定期借地権等の価額は、国税庁の財産評価において、原則として、課税時期において借地人に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって評価するとされています。
最近見た中古の定期借地権付物件の広告
この物件は、価格更新後1ヶ月以内に成約したようです。
当該物件は、写真が出ていたので、所在と写真から位置はすぐに分かりました。この地域は地価が緩やかな上昇傾向(私の感覚では最近は横ばい)にある比較的人気のある大規模な開発団地です。当該地域で定期借地権付き住宅が販売されていることは聞いていなかったので、どのような契約なのか興味がありました。
この物件の概算の土地価格
相続税路線価:80,000円/㎡
周辺の公示地:99,500円/㎡
推定土地価格:約1980万円
土地価格99,500円/㎡✕(60.05坪÷0.3025)≒19,800,000円
建物価格:0円~100万円くらい
建物は、大和ハウスの軽量鉄骨造りの家で、外壁のリフォームもなされた綺麗な外観でした。24年近く経過しているので0円評価が通常と思われますが、リフォームがなされ、手入れも良いことから100万円くらいの価値を見ることも考えられる物件でした。この案件の計算では建物価格ゼロで求めています。
オーナーサイド
年額地代:371,112円
年額地代=30,926円✕12ヶ月=371,112円
粗利回り:1.87%(一般定期借地権)
371,112円÷19,800,000円≒1.87%
純賃料利回り:1.71%(一般定期借地権)
当該地域は都市計画税(0.3%等)が課税されていないので、固定資産税(1.4%)がオーナーサイドの費用となります。小規模住宅用地の特例があるので、固定資産税は以下となります。
固定資産税
固定資産税の課税標準額=19,800,000円✕0.7✕1/6=2,310,000円
固定資産税額(年額)=2,310,000円✕1.4%≒32,300円
小規模住宅用地の特例(固定資産税の軽減)
・ 200㎡以下の部分(小規模住宅用地)→課税標準 6分の1に軽減
・200㎡超の部分(一般住宅用地)→ 課税標準 3分の1に軽減
純賃料利回り
(年額地代-固定資産税)÷土地価格=純賃料利回り
(371,112円-32,300円)÷19,800,000円≒1.71%(純賃料利回り)
経費率32,300円÷371,112円≒8.7%
オーナーサイドの経済的利益:約2.1%
1980万円の土地を所有し、年額338,812円の手取り(年額地代-固定資産税)が有り、かつ780万円の保証金を受け取り、これを運用できます。この場合、不動産鑑定士は1%くらいの運用利回りで保証金の運用益を勘案します。
注;かつて保証金の運用利回りを2%くらいで把握していましたが、低金利の現在では1%で把握するのが標準です。
保証金7,800,000円✕運用利回り1%=78,000円
(338,812円+78,000円)÷19,800,000円≒2.1%
購入者サイド
住宅を借りた場合
この定期借地権付住宅を借りた場合、以下の周辺の相場、規模、建築年、物件の品等から7.5万円から8.5万円くらいで借りることができると思います。
当該中古の定期借地権付住宅を買った場合の損得
この中古の定期借地権付住宅を購入した場合、買主は200万円の物件価格(定期借地権付建物の価格)と返ってくる保証金780万円を一括で支払う(それ以外に将来、建物の解体費用を支払う必要がある)ことにより、月々30,926円の地代と建物の固定資産税(中古物件の購入者負担)でこの物件に住むことが可能になります。この場合、賃貸で借りるなら7.5万円から8.5万円くらいかかる物件に半値未満で住むことが可能なことから、毎月の収支だけを見ればメリットがありそうです。
中古の定期借地権付住宅を購入する場合の注意点
- 物件を第三者に売却出来なくても、あと26年間地代を支払い続けなくてはならない。
- 中古で物件価格の安い定期借地権付物件ということも有り、住宅ローンは限られること。
- 中古物件の保証金の場合は、通常は現金で用意する必要がある。
- 建て替えによる期間の延長がない(50年の定期借地権の場合、新築した25年後に建て替えするようなことも可能だが、新築後40年で建て替えしても、10年後には建物を解体しなくてはならない。)
- 住宅ローン減税は、基本的に、建物にしか使えない。保証金の一部について可能というのを見たことがありますが、これは税務署でご確認下さい。
- 建物の解体に100万円前後の費用がかかる。
一般定期借地権割合(参考まで):約10%、残存期間26年のケース
売買価格200万円(建物価格はゼロとして査定)
定期借地権の価格200万円÷土地価格1980万円≒10%
相続税の財産評価の求め方で検証していませんが、残存期間が半分残っている物件の定期借地権の価値が土地価格の10%とは、思ったより小さいと思いました。
一般定期借地権付住宅を買って損なケース(本件とは違う具体例)
- 定期借地権付建物の価格が960万円(諸経費込み)
- 定期借地権の保証金400万円
- 建物は中古でかなり経過
- 定期借地権の残存期間が20年
- 将来の建物の解体費用見込額が120万円
- この物件を借りた場合8万円(将来的な家賃の値下げも考慮した平均額)
- 月額地代3.5万円
- 建物の固定資産税・火災保険 月額3千円
上記の場合、単純化のため、複利で計算しませんが、(物件購入費用960万円+将来の解体費用120万円)÷20年=54万円/年額
54万円÷12ヶ月=4.5万円(物件購入金額を一ヶ月あたりで換算した金額)
上記の場合、一ヶ月当たりで換算すると、購入金額等4.5万円+地代3.5万円+建物税額等0.3万円=8.3万円となります。
この場合、1360万円を最初に支払うことで、毎月の地代の返済を3.5万円に出来るので、安くなっているように感じますが、合計してみると、美味しい話ではありません。1360万円の手持ちを運用すれば、収入が増えますし、いつでも退去でき、現金を保持できる賃貸には魅力があります。
ただし、高齢者になると、他の物件に転居しにくくなることがあるので、注意が必要です。高齢者が賃貸するのに困った場合は、UR賃貸住宅が良いと思います。
参考:定期借地権付物件の住宅ローン
まとめ
オーナーサイドの経済的利益(純賃料利回り+保証金の運用益)が2.1%くらいということが示しているように、この土地の物件価格、建物の品等、地域の人気、利回りからすれば、買い主にとって悪くない話だと思われました。将来的にその物件に26年住み続け、建て替えなども検討していない場合、一括で1000万円出せるのであれば、「アリ」だと思いました。土地は借地ですが26年間借りられますし、戸建て物件の建物部分は自分の所有になり、リフォームなども気軽に出来るでしょう。また、高齢者になると良い賃貸物件に入居するのが難しくなるので、終の棲家を確保する意味合いでも大きいと思います。